逆さまの世界
「鏡に映っているのは、自分の顔でしょ」 「だけど自分の本当の顔って、自分じゃ見えないじゃない」 「でも、他の人から見たり写真で見ても、現実も鏡の中も、男は男じゃないの?」 「鏡だって、左右は逆さまだけど、上下はそのままに見えるでしょ。あれは、心が矯正して見せてるのよ。人間の目が、左右に並んでるから左右は反対に見えるのよ。もし、目が上下に並んでたら、上下が逆さまで、左右はそのままに見えるはずよ。 「ほんとうは、違うものでも、頭の中で勝手に矯正しちゃってるのね」 「それに、同じものを見ていても、あなたと私じゃ心の中では、違って見えてるかもしれないのよ。わたしが赤いと感じている色を、あなたは、私の心の中の茶色として感じていて、それを赤いと言ってるかもしれないわよ。だれも、他の人の心の中を覗いて確かめるなんて出来ないんだから」 「そうね。私も、右目と左目じゃ同じものを見ても違った色に見えるわ。同じものを見ていても、心の中では、誰もが同じ像を感じているとは限らないのよね」 「ほんとうは、みんな本能的にそのことを知っているのよ。だから、『男らしく』なんていうのよ。あなたが、ほんとうに男だったら、今更、男に『男らしく』なんて言う必要ないし、あなただって、そんなことを言われても気にする必要なんかないんだし。 鏡の力が強過ぎて、ほんとうの世界が見えなくなちゃってるのよ。ほんとうの世界は、鏡の中の世界とは、何もかもが逆さまなのよ。あなたも、ほんとうの世界を見てみたくない?」 |
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