(桃色)

女医・秘密診察室

館 淳一 フランス書院文庫(1989)

 TV(トランスベスタイト)、なかでもシーメイルを中心に扱ったソフトポルノ+サスペンス小説です。TVに関する医学的な解説がやさしく書かれているから、すべてのTV=同性愛者だと勘違いしている人は一度読んでみたら。
 レズシーンやソフトSMなんかも入っているからおもしろいよ。

『 ページをめくると、前ページでは女性そのものだった人々の全裸写真だった。皆、通常のサイズのペニスを、ある者は巨根を、誇らし気に見せつけていた。乳房は平たい者もいれば、明らかに手術で膨らませたものもいるが、全体的にゴツゴツと逞しい者はいない。
「彼らはトランスベスタイト−異性装愛好と言うんだけど、男性が女性のように変身することを楽しむ人々なの。多くは、日常は男性として活動し、一人になった時とか仲間うちだけで女性になって楽しんでいる、いわば趣味として女装を楽しんでいる人々ね。ここにも書いてあるけど、男性が好きという同性愛は案外少ないのよ。中には恋人や奥さんも公認という人もいるし‥…」
 悠は呆気にとられてそれらの写真に見入ってしまった。
「日本ではオカマとかニューハーフとかいうと、同性愛だと思われているけど、そうでない人も大勢いるのよ。こういう人々を異性愛型異性装者−ヘテロセクシャル・トランスベスタイトというんだけど、キミもたぶんこういった人たちと同じタイプだと思う」
「でも、こういうのって、異常じやないんですか? 変態だとか、よく言うでしょう?」
「異常ねぇ」
 令子は苦笑してみせた。
「ひと口で正常とか異常って言うけど、何が異常で、何が正常なのかっていうのは、ひどく難しいことなのね。精神も肉体も百パーセント男性っていう人がいたら、その人はかえって異常なのね。というのは、男性だって女性ホルモンを分泌しその影響を受けているんだから。最近は男性がお化粧したり、女っぽい下着や衣裳を着けてもあんまり白い目で見られなくなったでしょう? そうそう、この前デパートに行ってたまたま男性下着の売り場を通ったら、今の男の人の下着って女性も顔負けなぐらい色とりどりで、中にはレースを使ったりフリルがついたりしたのもあったわ。ああいうのが売れてるってことは、人には言わないだけで、こっそり女性の服を着けたりお化粧したりする男性が多いという証拠だと思う。その存在が社会に悪影響を及ぼすなら別だけど、TV--女装趣味は誰の害にもならないから、ある意味では軍人とか暴力団とか、男っぽいのが売りものの男性たちより正常だと言えるわね」』

あらすじ

 女医・鷹見令子は、昼は鷹見クリニックの院長、夜は自宅を改造した第二診察室で、インポテンツや不感症の性的悩みを持った患者たちに自分が考案した治療を施したり、露出願望の診察マニアの願望を満たす特別診察をしていた。

 中学生の松崎悠は、事故で脳下垂体が傷つき男性ホルモンが不足して身体が女性っぽくなり、令子の治療を受けていたが、悠自身は女の子っぽくなりたくて薬を飲まないで悩んでいた。あるとき、悠は思いきって、令子に”男の子になりたくないと”相談したが……。

『「すみません。でも、男の子のほうへ戻りたくないから…‥」
「だろうと思った。キミはそれほど男の子が嫌いなのね、う−ん、困ったなあ」
 令子は難しい顔をして唸ってみせた。それからもう一つ、質問をぶつけた。
「悠クンは、他の男の子とか、あるいは男の人はどう?好かれたいとか、とても好きな人がいるとか、あるいは自分が女の子になったとき、抱かれてみたい、キスしてほしいという欲望はある?」
 美少年は目を丸くして、嫌悪感もあらわに首を振った。
「いえ、そんなこと、考えたこともありません!」
「じや、女の子は?好きになるなら女の子?抱き合ったりキスしたりしてみたい?」
「はい」
 令子は頷いた。
「ということはね、キミはやっぱり根本では男の子なの。ふつう性転換手術をしてまで女性になりたい、って思う男性はね、『自分は間違って男に生まれてしまったんだ。本当は女なんだ』という意識が徹底的に強いのよ。だから、姿かたちも女性になって男性に愛されるようになりたい、セックスも男としたいし、結婚して家庭を持ちたい−っていう強い願望があるの。日本では公式にはやっていないけど、アメリカなどでは精神分析をやって『この人は精神的にも女だ』って認めると手術をして、女性の姿にしてあげてるのよ。
でも、それだって子宮とか卵巣まで作れるわけじゃないから、本当の女になれるわけじゃないけどね」』

 しかし、令子は思い掛けないことを悠に言った。
 悠が研究材料になってくれるのなら、令子の少女時代の部屋や服を自由に使って女装していいというのだ。自宅を改造した診察室で、男性機能を保ったままでどこまで女らしくなれるか研究するという。悠はこの第二診察室で週一回の診察を受けることを約束する……。

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姉と弟 禁蝕の血淫

(上:倒錯篇、下:調教篇)

館淳一 フランス書院(1991)

 ポルノやSM小説は山ほどありますし、マゾヒストの男性を扱ったいわゆる女王様ものも比較的見つけやすいジャンルですが、ありそうでなかなかないのがこの本のように女装マゾヒストを扱った小説です。
 この本は、かなりハードなSM小説ですから、当然、18才未満禁止です。

あらすじ

 姫井晶子と冬紀は、幼いころ両親に死なれ伯父夫婦に育てられた。
 晶子は、スチュワーデスを止め、今はツアーコンダクターをしているが、高校時代には英語の女性教師、スチュワーデスの養成学校では寮監の女性に手ほどきを受けレズに目覚めていた。
 一方、弟の冬紀は、高校時代、伯父が単身赴任することになり叔母と二人暮らしをしていたが、ある日、一人で留守番することになり叔母の部屋に入り込んだ。そこで、冬紀はタンスからはみ出しているスリップを見つけ……

『(うわ。こんなにスベスベしてる。こんなのを着られるなんて、女の人っていいなあ)
 匂い袋からの移り香がしなやかな薄布から馥郁と匂いたち、少年の鼻を擽った。
(ちょっと着てみたい……)
 どうしてそういう衝動がつきあげてきたのか、冬紀にはわからない。それまでは、女性の下着を自分のような男の子が着てみるなど、考えたこともない。たとえ強要されたとしても断ったに違いない。
 しばらく躊躇った後、少年は服を脱いだ。明日の朝まで、この家の中にいるのは自分だけなのだ。それでも胸はドキドキして喉がカラカラになり、スリップを取り上げる手が震えた。
 ブリーフ一枚の裸になって、その上から伯母の、いい匂いのしみこんだスリップを纏った。
 十四歳の少年は、蒲柳の質というほどではなかったが、華奢な体格だった。それでも高価なランジェリーは彼の肌にぴったりまとわりつき、ウエストの部分など緊いくらいだ。(う−ん、気持ちいい‥…・)
 思わずスベスベした絹の上から自分の柔肌を撫でまわしてみた冬妃だった。胸から膝までの部分がすっぽり覆われ、それに反して肩の部分は丸出しだ。そういう下着を着けたことがなかっただけに、体を動かしてみると最初はとても奇妙な感じがする。
(どんな恰好に見えるんだろう?)
 おそるおそる、伯母の化粧台の前に行き、鏡の中に自分の姿を映してみた。
(へぇ−……!)
 男の子が女性の下着を着けたら、とても似合わないという予想は、鏡の中にいる自分を見たとき、覆されてしまった。
(なんだか、女の子になったみたいなヘンな気持ち…‥・。似合わないこともないや)
 シゲシゲと自分の反射像を眺め、いろいろと姿勢を変えてみる。これが、いかにも男らしく筋肉質の体格で、髭がはえたり体毛がむさ苦しく繁茂した肉体だったら滑稽以外の何物でもないはずだ。しかし、幸か不幸か、十四歳にしては奥手な少年の肉体は、中性的というより、少女のような印象が強かった。もちろん体毛も薄く、筋肉も目立たない。
 そして、級友たちから嘲笑を受ける原因になっている、ふだんでも泣きべそをかいたようにうるんで見える大きな瞳、ふくよかな赤みの強い唇が、スリップを纏ったせいでいっそう少女っぼさを強調する助けになっていた。髪をぴたりと撫でつけるようにすると、ボーイッシュな感じの少女に見紛うばかりだ。』

 冬紀が自分の下着をつけているのを見つけた叔母は、冬紀を責めながらも、次第に冬紀を自分の性の奴隷に仕立てていった。

 冬紀は、高校を卒業すると上京してデザイナーの専門学校に通うようになっていたが、ある日、晶子はアパートの大家から弟の冬紀が二ヶ月前から失踪していると連絡を受ける。
 晶子は、冬紀の行方を探っているうちに「シルク・レディ」という高級ランジェリーブティックに辿り着く。そこは、実は、マゾヒストの男性会員のための秘密クラブであった。
 弟の冬紀は、クラブのマダム魅矢子によってマゾに目覚め、自ら希望して魅矢子の奴隷として暮らしていた。晶子もまた、魅矢子とレズ関係を持ちここで暮らすようになる。

『一夜、彼女は顧客とプレイを終えたばかりの晶子を自室に呼んだ。
 マゾヒストの男を額とディルドオでさんざんにいたぶり、辱め尽くしてきた若いサディスティンの体からは、芳しい体臭がふり撒かれていた。自分も晶子と同じように黒いランジェリーにハイヒールという姿で出迎えた『シルク・レディ』の経営者は、優しく晶子を抱擁し情熱的な接吻を交わしてから、こう告げた。
「晶子。一日にひとりだけの客と限定しているのは、あなたに余計なエネルギーを消耗して欲しくないから。それというのも、私は、『シルク・レディ』を単なるマゾ男たちの楽園にするつもりはないの」
「え?では、なんのためにこういう店を‥…・?」
「身勝手で身のほど知らずな男どもに、女たちの真の姿を教えるためよ。『シルク・レディ』は、そういった組織の基地なのよ。その組織は、フエミニストたちの考えているような啓蒙のための組織とも違う。そうね‥‥‥、アマゾネス軍団のゲリラ部隊といったらいいかしら。そのための軍資金は『シルク・レディ』のこれまでの会員たちから集めて、今はずいぶんな額に達したわ。晶子にはそのアマゾネス軍団の指揮をとってほしいの」
 晶子は驚いた。これだけの秘密クラブを作りあげただけでも大事業なのに、謎めいた欧亜混血の美女は、さらに遠大な計画を胸に秘めていたのだ。
「そのアマゾネス軍団というのは、具体的に、どういうことをするのかしら?・」
「そうね、今、考えているのは、フェミニズムに対して無知で攻撃的な男たちを収容し、女たちに奉仕する奴隷に教育しなおす調教監獄のようなもの」
「奴隷……」
 晶子は目を丸くした。』

 クラブのマダム魅矢子の目的は、単なる悦楽クラブを経営することではなく、好き勝手に女をオモチャにしてきた男をマゾ奴隷に仕立てて復讐するための調教監獄をつくろうとしていたのだ。
 第一号の囚人は、何人もの女性を監禁し力ずくで犯し、親の権力で罪を免れてきたアクションスター中原研一だった。研一をら致した女性達の調教が始まった。徹底的に研一にマゾ調教をし、抵抗する気力を無くさせて……

『次は、剃刀を手にした奈津紀が彼の全身の毛という毛を、頭髪から眉毛に至るまで徹底的に剃り落とした。
 無毛人間と化した彼を『シルク・レディ』のスタッフが押さえつけ、椅子に縛りつけてから、口々に囃したてながらメイキャップを施した。それからナチュラルウェーブの鬘をかぶせた。
 化粧が終わると着付けだ。弾力性に富んだスパンデックス素材のスキャンティ型ガードルを穿かされ、ウエストを締めつけるようにコルセット兼用のガーターベルトを着せられた。赤いペディキュアまで施された脚には黒いシーム入りのナイロンストッキングを穿かされた。
 胸には女装者用に作られたパッド入りブラジャー。その上から黒いシルクのミニスリップを着せられる。この段階で、これまで侮蔑の言葉を洛びせていた女たちが、しだいに驚嘆する表情を浮かべ始めた。
 最後にイヤリングまで着けさせられ、黒エナメルのハイヒールを穿かされて、後ろ手錠をかけられた。その恰好で拷問室の中央に運ばせた肘掛け椅子に、いかにも女王然として座っている魅矢子ローラン−アマゾネス軍団の総統一の前に引きたてられた。大きな鏡が運ばれ、彼の目にも、女装した自分の姿を見せつけられた。』

 研一は、女装マゾ奴隷の烙印を押され、シーメイルとして自ら男達に身体を売るようになっていった。
 そして、調教監獄では第二・第三の囚人達が調教を受けていく。

PS.この小説の中で、準主役としてようこが登場します。むかし、研一に犯され、調教   監獄の看守として研一を調教する役なのよ。

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