(藤色)
インタビューを中心に、オムニバス形式で現代の性の求道者たちの生き様を紹介した本です。
『真夜中、寝しずまった頃に周囲の物音や気配に注意しながら女性の下着をそっと身につける瞬間、これがたまらなくいいですね。
フリルやレースで飾られた純白の下着を肌に押しつけるともうすごく気持ちが落ち着いて。
ああ、このまま、ずうっとこうしていたい、ああ、やめられない、と、ちょっと自虐的になるところもゾクゾクします。女装マニアは、女の格好をするのがたまらない快感でね。女になりたいとは決しておもわない。
女になりたい人はニューハーフやゲイ、オカマ、ホモとあちらはすべて女になりたい願望の人たちでね。女装マニアは、まず男であるというのが前提。だからヘンな話、大の女好きなんです。女が好きで好きでならない。
でも男だからと開きなおっているわけ。
ボクは、男は嫌いですよ。男との肉体関係は考えただけでも寒む気がしてダメ。やっぱりあのふくよかなオッパイラインとやわらかな肉づきの方がはるかにステキです。オマンコだってたまらなくいいですよ。
まあ、一種の深いビョーキみたいなものです。だってこんな毛むくじゃらのオッサンが女性の恰好をして町を歩くんですからビョーキそのものじやないですか。
このピョーキは絶対に治らない。治らない代わりに死ぬような切羽つまったキケンがない。でもタチが悪くてねえ。一度、かかるとやめようとおもってもなかなかやめられない。困ったビョーキで治療法がないんですから。
ボクはこの深いビョーキになってから十三年目になるんですよ。幼い頃の軽いビョーキから数えると三十年以上の女装病でねえ。何回、やめようとおもっても結局は自分に負けちゃって。どうせ、やめられないのなら楽しんじゃえばいいんじゃないか、と。堂々と開きなおると、目茶目茶、楽しいんです。コノ世界は。』はいはい、おっしゃるとおりでございます。ホントにこの世界は、一度はまると止められないビョーキですよね。
のっけから、本文を引用してしまいましたが、これは塩崎さんのお話です。塩崎さんて誰?って言う方も、キャンディちゃんと言えばお分かりですよね。あの「ひまわり」のキャンディ・ミルキーこと塩崎雄三さんのことです。
塩崎さんは引用でもお分かりのとおり、TVとしての女装者です。私の好みとは、ちょっと違うけれど、人それぞれ女装にもいろいろな楽しみ方があるものです。他の人の女装のことを知るのも参考になりますね。『女装の仲間とのおつきあいは多いけど、みんなすごいこだわりですよ。一年中、日本全国を何周も旅行する旅行女装でしょう。新幹線女装といって東京から大阪へ出張するたびに女装スナックヘ通うのもいるし、雨が降るとぬれながら町歩きを楽しむ雨ふり女装。
女みたいな小顔となよなよ声で夜の盛り場に出没する盛り場女装でしょう。
若奥さんスタイルでデパートの食品売り場で試食をするデパート女装とね。また町歩きもしないかわりに写真をとるだけの女装写真でしょう。面白いのはガード下の嬉婦みたいなくずれた女装で男がついつい誘いたくなる娼婦女装もいて、一度やると男に誘われる瞬間がたまらないという。
でもハッキリいえることは、コノ世界も柄にあわせたものじやないとお笑いでね。つまりは、育ちがハッキリと出てしまうわけです。
ボクなんか印刷屋さんだからガラッ八でね。
いくら気どってもダメ。肥満体形もあって少女マンガのキャラクターが一番似合うんです。
一度、着物をつけて出かけたらオバケとかオカマといわれてショックだった。
大阪にはエリート女装といって、ある大会社の御曹子でね。頭も育ちも超一流。億ションを秘密の部屋にして専属デザイナーにすべてつくらせているんですから。上品な育ちそのままにシルクや高価な材質を金にまかせて惜しみなく使うから、見ためもサイコー。着こなしも上品なんです。育ちが、きちんと出ちゃうのが女装なんです。
[育ちが歴然と出てくるのが女装といういいまわしは説得力があって面白い。そしてなんともいえない数々の悲喜劇のドラマが展開されているところに女装の業の深さが潜む。
「手間とヒマとカネをかけてもプスはブスにしかならない。やっぱり上品な女装は、その人の育ちのよさに尽きます」
育ち、いや生きぎまというネガティブのものが最後にモノをいうのか。
「十通りの女装のパターンがあっても自分の似合うのは二、三通り。結局は、自分の地が最後に残るんです」
定番のキャンディルックを身にまとった彼にとって少女マンガの世界は心静まる自分の地をいかしたものなのだろう。]』女装にも育ちが出るというのはちょっと辛いお言葉ですね。育ちは今更どうしようもないから、人格向上にでも努力しましょうかね。わたしも早くほんとうに自分に似合うものを見つけなくちゃあね。
この本には、簡単な女装の歴史みたいなのも書いてあって、「パレット」のことにも触れられてますよ。それから、塩崎さんの他に有名な東京向島のオトコ芸者「真砂緒」さんのお話も載ってます。
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