南の島の物語

 

ある南の島のお話です。
その島は、とっても綺麗で豊かな島でした。
空は高く澄みわたり、夜には満天の星がまばたき、
海は空を映して青く輝いていました。
一年中花が咲きほこり、いつでも果物がとれました。
島の人たちは、好きなときに採って食べていました。
そして、男・女関係なく自分が得意な仕事を分担して、助け合って幸せに暮らしていました。

ある時、海の向こうから大きな船がやってきました。
船から降りて来た人は、北の国から来た人たちでした。
北の国の人が、島に工場を建てたいといったので、島の人たちは土地を使ってもよいと言いました。

北の国の人たちは、とってもよく働いて、いろいろな建物を造っていきました。島の人たちは、こんなによく働く人を見た事が無かったので、とっても感心しました。
でも、外で働いているのは男だけでした。
女は、いつも家の中にいました。
「建物を造るのが下手な男や上手な女もいるだろうに」と島の人たちは思いました。

工場が出来上がると、北の国の人たちは、休まずにもっとよく働くようになりました。
「一体何ができるのだろう。
あんなに一生懸命働いてつくるものだから、さぞかし素晴らしいものに違いない。」
島の人たちは、代わるがわる様子を見に行きますが、その素晴らしいものはいっこうにできあがってくる様子はありませんでした。
それでも、北の国の人たちは、あいかわらず働き続けています。

工場が動き始めると、海の水が濁って魚が捕れなくなりました。
すると、北の国の人たちが沖まで行ける大きな船をくれました。
そして島の人たちが食べきれないほどいっぱい魚が捕れました。
島の人たちが食べきれない分は、船でやって来た人が持って行って、代わりに今まで食べた事の無いおいしい食べ物をくれました。
島の人たちは、とっても感謝しました。
でも、大きな船に乗れるのは男だけだと言われたので、魚採りが上手だった女たちは何もする事が無くなってしまいました。

しばらくすると黒い雨が降ってきて、島の草木が枯れ始め、果物がとれなくなりました。
すると、北の国の人たちが代わりに不思議な実のなる丈夫な木を植えてくれました。
そして、その実と交換に、おいしい食べ物をたくさんくれました。
島の人たちは、とっても感謝しました。
でも、不思議な実に触ってもいいのは男だけだと言われたので、木登りが上手だった女たちは何もする事が無くなってしまいました。

また、しばらくすると島の人たちに新しい病気が広がりはじめました。
たくさんの島の人たちが寝込んでしまいました。

その時でした。
北の国の人たちが寝る間も惜しんで工場で働いて作った、待ちにまった「品物」が、やっとできあがったのです。
薬でした。
そして、その薬を飲むと島の人たちの病気は、たちまち治りました。
島の人たちは、とっても感謝しました。
でも、その薬には副作用がありました。その薬を飲んだ島の人は、北の国の人たちのように、男は男らしく外で働き、女は男に従順に家の中にいるのがあたりまえだと思うようになりました。

そして、その南の島は、世界中で一番、男が男らしく、女が女らしい島になりました。

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