女性上位の神話

 ほとんどの伝統的社会では、女性を犠牲とした男性支配がなされてきました。このような社会では、神話は男性の観点から語られていると考えられます。つまり、神話の中の女性像は、男性の観念の中の女性であり、男の目に女性がどう映ってきたのか、また、何を女性的なものとして感じてきたかを振り返るよい材料になります。

◆ 東アフリカ・キユク族の神話

 東アフリカのキクユ族は現在は父系制社会ですが、もとは母系制で女家長制の社会でした。
 そのころ女は多夫制を行っていて、姦通などをした男は殺されました。女たちのきびしい処罰に怒った男たちは、女たちに反抗しようと思いました。
 しかし当時は女のほうが男よりも肉体的にも強く、すぐれた戦士だったので、なかなか成功させることができませんでした。
 ある時、男たちは、秘密の会合を開いて、相談しました。そして、もっともよい時期は、女の大多数ことに指導者たちが妊娠しているときがよいということになりました。
 反乱の第一段階の実行日と定められた日に、男たちは行働を始めました。男たちは、女たちに自分たちと性交するように誘ったのです。女たちは、男の陰謀に気づかず、男たちの誘いに従いました。
 月が六回欠けたのち、男たちはいくつかの集団を作って反乱を実行しました。妊娠中の女たちは大した抵抗もできずに指導権を男に奪われてしまいました。
 男たちは女に代わってそれぞれの家族の長となり、多夫制を廃止し、多妻制を採りました。しかし、氏族の名前を廃そうとしたところ、女たちの反対が強いので、もとのままにしました。
 今でもキクユ族の九つの大氏族の名は、かつてのキクユ族の女家長、九人の娘の名なのです。

◇ 西アフリカ・エコイ族の神話

 万物の初めに世界に住んでいたのは、女だけでした。
 ある日のこと、大地の神アウバッシ・ヌシは、ふとしたはずみで一人の女を殺してしまいました。女たちは、このことを知ると、集会を開いて相談しました。そして、神に、「もし私たちを殺すつもりならば、一人ずつ殺すのではなくて、みんないっぺんに殺してください」と、願いました。
 神は、殺された女の替わりに、何でも欲しいものをやろうと言いました。
 女たちは、「くださることのできるものを挙げてください。欲しいものの名があったら、はい、といいます」と答えました。
 そこで、神は、もっている果物、鳥、動物の名を次々に挙げていきましたが、女たちは「いるません」と答えるばかりでした。
 そして、とうとう最後の一つになってしまいました。
 「男が欲しいのか?」神が尋ねると、女たちは全員が「はい」と叫んで、大喜びで抱きあって踊りだしました。
 こうして女たちは、亡くなった女の替わりに男をもらいました。
 男たちは、女たちの召使いになり、今日まで、女のために働かなければならないのです。だから、女が男の所有者であり、男にどんなことも要求することができ、女がしてもらいたいことを男がすることを期待するのです。

◆ 南米ティエラ・デル・フェゴ島のセルクナム族の神話

 昔々、太陽と月、星と風、山と川は、地上で今のわれわれのような生活を送っていた頃、女性がすべての権力と、男性に対するあらゆる命令権を握っていました。男たちは家にとどまって女性の命令に従って家事を行わねばならず、女たちの会議や決定に加わることはできませんでした。
 ある時、何人かの女が、男を永久に従属させようと相談しました。
 太陽男の妻の月女の思い付きで、女たちは、それぞれ独自のしかたで体に色を塗り、先の尖った樹の皮で作った仮面を頭からすっぽりかぶって、顔を完全に隠し、だれだかわからないようにして、集会所から出てきました。そして男たちに、自分たちは天から降ってきたり、あるいは、地中から出てきた精霊だと信じさせました。このような姿をして、女たちは命令をきかない男たちを厳しく罰したのでした。
 男たちは家で、子供の世話や家事をしなくてはならなくなりました。おまけに、精霊たちが肉を要求するので、いつもよりも精出して狩りをしなくてはなりませんでした。
 ある日のこと、太陽男が、射止めたグァナコを肩に狩りから帰って来る途中、荷が重いので、とある藤の木の後ろでひと休みしていると、そこから二人の少女が水浴びしながら、楽しげにおしゃべりしているのが見えました。
 見つからないように、そっと忍び寄った太陽男が、二人の話に聞き耳を立てると、少女たちは、女たちの悪だくみと、それを男たちがやすやすと信じているのを、面白がって話しているではありませんか。太陽男は、「あの精霊たちは、実は仮装した女たちなのだ」と、稲妻がひらめいたように女たちの謀を見抜きました。
 太陽男は、女たちに悟られぬように、男たち一人一人に女たちに欺されてきたことを知らせました。男たちは、それぞれ自分で調べてみて、騙されてきたことを確信するようになると、恐ろしい復讐を行う決心をしました。棍棒を手にして集まった男たちは、集会所に居た女たちを殴り倒しました。ただ月女だけは、天空が壊れてしまうことを恐れて殺すことができませんでした。月は天に逃れ、夫の太陽が後を追いましたが、追いつけませんでした。しかし、この時、月はひどく殴られて顔に傷を負ってしまいました。このときの傷が月の影です。
 男たちは集会所の女たちを皆殺しにした後、家に残っていた少女たちをすべて殴り殺しました。ただ、まだ二年目に達していない幼い娘だけには害を加えませんでした。この殺戮から逃げのびた女たちは、みな動物に変身しました。その体には女だったときにつけた塗り色があるので、男たちには、それがだれだかわかるのです。
 これ以来、男たちはかつての女たちがしたように仮面仮装して精霊の役を演じ、これを女たちには固く秘密にするようになったのです。

    

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